気筒数とトルクの関係

2017/7: 初版



目次


1. はじめに
2. 自転車のトルクをアップする方法
3. ロングストロークとトルクの関係
4. 気筒数とトルクの関係
5. 異論
6. まとめ

1. はじめに


本書では以前より、排気量が同じなら気筒数が少ないほどトルクはアップすると、まるで当たり前の事の様に書いていたのですが、読者よりメールを頂いてその理由を一切書いていない事にようやく気が付きました。


(186PS / 23.7kg·m)         (170PS / 25.0kg·m)


また同じ様に、ショートストロークのエンジンより、ロングストロークのエンジンの方がトルクがアップすると、これまた当然の事の様に書き続けていたのですが、その理由も一切書いていませんでした。


φ64mm/68mmのロングストロークエンジンを搭載した本田のS660

という訳で、遅ればせながらその理由をご説明したいと思います。

ただしそう聞くと、恐らく何方もシリンダー内の燃焼速度とか吸排気抵抗とか摺動抵抗とか、かなり難しくてアカデミックな話を想像されるのではないでしょうか。


ガソリンエンジン内の燃焼シーン

ところがどっこい、実はどんでもなく簡単な事で、何と自転車を使って説明ができるのです。

という訳で、いつもの様に自転車を例にして説明を開始したいと思います。


2. 自転車のトルクをアップする方法


本サイトを何度か訪れて頂いた方はご存じかもしれませんが、下の図はトルクと馬力の話で使ったイラストです。


トルクとはペダルを押す力

このペダルを押す力が強ければ強いほど、自転車のトルクも大きくなって、坂道も楽に登れます。

と、今まではペダルを押す力に焦点を当てて話してきましたが、今回注目するのは自転車のクランクです。

クランクとはペダルの根元に付いているアームの事です。

さて突然ですが、このクランクの長さを、右下の図の様に短くしたらどうなるでしょうか?


クランクの長さが短くなると自転車のトルクは小さくなる

かなり漕ぎにくくなるのは間違いないのですが、仮にペダルを押す力が同じでも、自転車のトルクが小さくなるのは容易に想像できると思います。

何故ならば、トルクは以下の式で表せるからです。

トルク=回転軸についた柄の長さ X 加えた力

ですので、もしクランクの長さが半分になれば、トルクも半分になってしまいます。

それでは逆に、クランクの長さを伸ばしたらどうなるでしょう?


この場合、同じ人が漕いだとしても、トルクは大きくなるのは間違いありません。

だとすると、これはかなり美味しい話ではないでしょうか?

なにしろ、クランクを長くするだけで、トルクが大きくなって、坂道を楽に上れる様になるのですから。

ですが、ここで1つ問題があります。

クランクを長くし過ぎると、足がペダルに届かなくなってしまう事です。

ですので、足の届く範囲内でクランクを長しなければなりません。

話を次に繋げるためにもっと言えば、自転車のトルクをアップするためには、足が長くなければいけない、という事を覚えておいて頂ければと思います。

自転車におけるクランクの重要性

さて、ここでいつもの通り脱線です。

お伝えしました様に、自転車におけるクランクの長さは、余り知られていない割には非常に重要です。


自転車の速度を上げるとなると、恐らく空気抵抗とタイヤと車重が三大要素なのかもしれませんが、本書は真っ先にクランクの長さを挙げたいくらいです。

下の表にあります様に、ママチャリと呼ばれる一般的な自転車のクランク長は165mmですが、少しお高いスポーツタイプの自転車でしたら170-180mmまで選択可能です。

種類 クランク長
ママチャリ 165mm
ロード自転車
(オプション)
170mm
(175-180mm)

仮にクランクの長さを165mmから175mmに変更した場合、同じ力で漕いでいながら、トルクも馬力も1.06倍になりますので、捨てたものではありません。

もし180mmにしたら、ほぼ1割増し(正確には1.09倍)です。

そう聞くと、もしかしたらクランクを長さを変えるのは、自転車の変速ギアを変えるのと同じだと思われていませんでしょうか?

だとしたら、全く違います。


変速ギアをいくら変えても、人が使うエネルギーは同じなので、疲れ方も速度も変わらないのです。

例えば変速ギアを低速にしたら、ペダルが軽くなりますが、その分ペダルを多く回す必要があるため、使うエネルギーは変わりません。

ですがクランクを長くすれば、ペダルは軽くなるものの、ペダルを多く回す必要がないので、使うエネルギーは減るのです。

これを別の言い方をすれば、クランクを長くすれば、使うエネルギーは同じ(疲れる量は同じ)でありながら、トルクと馬力がアップするので、目的地に早く着く事ができるのです。

コンマ数秒を争うトライアスロンだけでなく、毎日の通勤通学でちょっとした坂道を自転車で通る場合、思い切ってクランクの長さを変えてみるのも良いかもしれません。

 

ただしペダルに足が届く事が条件になります。



3. ロングストロークとトルクの関係


自転車でトルクをアップする方法が分かった所で、次はエンジンでトルクをアップする方法を考えてみましょう。

下はエンジン内部にある、ピストンとコンロッドとクランクシャフトです。


エンジン内部

この場合も自転車と同様に、ピストンの上下運動をコンロッドを介してクランクシャフトに伝える事によって、直線運動を回転運動に変換しています。

これを横から見ると、下の図の様になります。


この黄色の回転軸部分にペダルが付いているとすれば、コンロッド(連結棒)が人の足になり、クランクシャフトが自転車のクランクに当たります。

ちなみにクランクシャフトの横に付いている蒲鉾(かまぼこ)の様な物が、エンジンの振動を減らすためのバランサーです。

この図において、もしトルクをアップしたいのであれば、このクランクシャフトの軸間距離を長くすれば良い事になります。

ところが、ピストンが上下する距離は排気量で決まっていますので、このままではクランクシャフトの軸間距離を長くする事はできません。

では、排気量を同じにしたままで、クランクシャフトの軸間距離を長くするにはどうすれば良いでしょう?

そうです。


ロングストロークにすればクランクを長くできる

右上の図の様にシリンダーを細長くして、ピストンの移動量を大きくすれば(ロングストロークにすれば)良いのです。

そうすれば、クランクシャフトの軸間距離(赤の矢印)も長くする事ができ、結果としてトルクアップが図れるという訳です。


なお上の絵はかなり誇張して書いていますが、もし一回の爆発力が左も右も同じであれば、右のロングストロークの方がトルクが大きくなるのが、何となく分かって頂けるのではないかと思います。

また右の場合、ピストンの往復距離が長くなるので、どうしても高回転には向かないのはご存じの通りです。

ただし滅多にと言うか、殆ど使う事もない6000回転以上での最高出力など、現実においては何の役にも立たないので、ロングストロークの方が断然実用的だと言えます。




4. 気筒数とトルクの関係


同じ排気量であれば、ロングストロークの方がトルクが大きくなると分かった所で、次に同じ排気量で気筒数が少なくなるとどうなるか考えてみます。

例えば、同じ排気量の3気筒エンジンと4気筒エンジンでしたら、当然ながら3気筒の方が一つのシリンダー(気筒)は大きくなります。


BMWの3気筒1500ccエンジン

という事は、ボア・ストローク比(シリンダーの直径と長さの比率)が同じであれば、当然ながら3気筒の方がストロークが長くなりクランクシャフトの軸間距離を長くできます。

下の表は、1500㏄エンジンにおける3気筒と4気筒のボア(シリンダー直径)とストローク(ピストン移動距離)の値で、いずれもボア・ストローク比が1:1の場合です。

種類\項目 ボア
(シリンダー直径)
ストローク
(ピストン移動距離)
1500cc3気筒 φ86mm 86mm
1500cc4気筒 φ78mm 78mm

これをご覧頂きます様に、3気筒の方が4気筒より8mmストロークが長くなるので、クランクシャフトの軸間距離も8mm(率にして10%)長くできます。

ここで、クランクシャフトが一回転する間の3気筒と4気筒における全体の爆発力が同じだとすると、クランクシャフトの軸間距離が長くなった分だけ3気筒の方がトルクが増える事になります

生憎コンロッドの傾きも考慮しないといけないため、単純にトルクが10%アップするとは言えませんし、シリンダーの大きさも数も異なるので爆発力が全く同じとも言えないのですが、気筒数が減れば理論上トルクがアップする事は納得して頂けると思います。


5. 異論


そうは言っても、上記説明でご納得頂けない方も多数いらっしゃるのは間違いないでしょう。

例としては、以下の2種類の異論があると思います。

異論1:クランク長以外の変動要素が山ほどある

気筒数が変われば1気筒の容積が変わるので、燃焼速度も変わるし、バルブの径も変わるし、摺動抵抗も変わるので、一概には言えない。

こういった指摘は、本当に良く見掛けます。

そうやって直ぐには証明できない変動要素を並べ立てるのは、それこそ誰にでもできるのですが、そう言うならその影響度も示して頂きたいものです。

例えば燃焼速度を考えたとすると、断然小さいシリンダーの方が有利と思われるでしょう。

前述の1500㏄エンジンの場合でしたら、1気筒当たり500㏄と375㏄ですので、4気筒の方が3割以上小さい分、燃焼速度が速い様に思ってしまいます。

ですが、混合気の爆発はシリンダー上部の小さな燃焼室内で発生するのであって、ピストンが上下する部分とは直接関係はないのです。



とは言え、圧縮比が同じならば燃焼室の容積も小さくなるのですが、元々小さな燃焼室ですので、それが少しぐらい変わったぐらいで燃焼速度が大きく変わるとも思えません。

また、その燃焼速度なるものが、どの程度トルクに影響するのかさえ不明です。

またシリンダーが大きくなると、バルブの径も大きくできるので、吸排気効率が良くなるの間違いありません。

ですが、低速域では混合気の流速が遅くなり、却って燃焼に悪影響を及ぼす恐れもあり、これまたトルクにどの程度影響するか不明です。

さらに摺動抵抗については、ピストンとシリンダーの擦れる面積に比例するとしたら、1500㏄エンジンの場合で全表面積は以下の様になります。

種類\項目 1シリンダー容量 1シリンダー
側面の表面積
全シリンダー
側面の表面積
1500cc3気筒 φ86mm 7396mm2 22188mm2
1500cc4気筒 φ78mm 6084mm2 24336mm2

この差は10%ほどになりますが、いくつかあるエンジン損失の一部である摺動抵抗のそのまた10%ですので、トルクとクランク長の関係と比べれば微々たるものです。

とは言え、現時点においてはどれも影響度を数値で表せないので、無視できるレベルとは断定できません。

ただし、間違いなく言えるのは、いくら別の変動要素を並べても、論理的に明確な要素を否定できないという事実です。

そして、もう一つの例が以下の様な異論です。

異論2:例外があるので納得できない

ホンダのDOHC4バルブのバイクの場合、以下の様に4気筒のほうが高トルクです。

バイク エンジン トルク

CB400SF
4気筒
VTECあり
3.9kgf・m

CBR400R
2気筒
VTECなし
3.8kgf・m

しかも、CBR400Rのほうがロングストロークです。

故に気筒数が少なければトルクが大きくなるというのは、一概には言えない。

物事にはすべからず例外は存在するのですが、一部の例外を以て全てを否定するのも、かなり無理があります。

恐らく上の場合でしたら、CBR400RのエンジンもVTECにすれば、トルクは4気筒を上回るのではないでしょうか。

また実際に集計していないので偉そうな事は言えないのですが、現在市販されているエンジンを調査して統計処理すれば、小気筒エンジンの方がトルクが大きいという結果が出る筈です。

日本の軽自動車でしたら、同じ排気量で3気筒と4気筒がありますので、かなり調べやすいのではないでしょうか?

いつか時間ができたら、やってみたいと思います。


6. まとめ


それではまとめです。

①自転車のトルクをアップするためには、ペダルのクランクを長くすれば良い。
ただし、長くし過ぎると足が届かなくなるので、届く範囲にしなければならない。

②エンジンの場合も、クランクシャフトの軸間距離を長くすればトルクアップを図れるが、そのためにはシリンダーを細長くしてロングストロークにする必要がある。

③気筒数を少なくすれば、必然的にストロークは長くなるので、トルクはアップする。

④他の変動要素や、一部の例外はあるものの、クランク長が長くなればトルクがアップするという理論的な事実は決して否定できない。


本書がお役に立てば幸いです。




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