小学生でも分かるトルクと馬力の話 
(本当に早いクルマとは?)



 12. ブレーキ
  12-1. ディスクブレーキとドラムブレーキ
  12-2. ドラムブレーキ最大の欠点
  12-3. ディスクブレーキ最大の長所
  12-4. 今でも起こるカックンブレーキ
  12-5. カックンブレーキの原因
  12-6. サーキットにおけるブレーキ性能


第12章:ブレーキ
(知られざるドラムブレーキの長所)


12-1. ディスクブレーキとドラムブレーキ


さて、またまた問題です。

ディスクブレーキ(左)とドラムブレーキ(右)、制動力はどちらが優れているでしょうか?

           
         ディスクブレーキ      ドラムブレーキ(内部)

これも恐らく100人中100人が、ディスクブレーキと答えられるでしょうが、実はこれも間違いです。

ディスクブレーキにしろドラムブレーキにしろ、コストを掛けてブレーキパッドの接触面を広げ圧力を強くすればいくらでも制動力は高くできるのですが、コストを同じにして比べればドラム式の方が制動力は圧倒的に高いのです。

ではなぜディスクブレーキの方が優れていると言われ、且つ実際に多く採用されているのでしょうか?

これも恐らく冷却効果が優れているから、というのが一般的な答えでしょう。


ディスクブレーキのサーモグラフィー画像

それも間違いではないのですが、実はドラムブレーキには最大の長所にして最大の欠点があるのです。

これから、それを解き明かしていきます。

でもその前に、折角ですのでもう一つだけ付け加えておきましょう。

先ほどディスクブレーキの方が冷却効果に優れているとお伝えしました。

この理由はディスクブレーキは表面に露出していて、走行中に風で冷やせるからだとして、ではドラムブレーキはどうなのでしょう?

実はドラムブレーキのドラム自体は表面に露出しているので、ディスクブレーキ同様に放熱性は高いのです。


ですが、熱に弱いブレーキパッドのあるドラムブレーキ内部が密閉されていて、放熱性が悪いのです。


12-2. ドラムブレーキ最大の欠点


話は戻って、ドラムブレーキ最大の欠点とは、急激に強いブレーキが掛る事です。

制動力を得るためのブレーキですので、本来でしたらこれは長所なのですが、信号でゆっくり止まろうとする度に急ブレーキになったら、運転手も同乗者もたまったものではありません。

今では殆ど死語になってしまいましたが、この現象をカックンブレーキと呼び、そもそも機構上の問題なのですが、昔はエンストと並んで当時は運転が下手な人の行為と思われていました。

またドラムブレーキ長所とは、この弱点の裏返しで、少ない力で強いブレーキ力を発揮できる事です。

このためサイドブレーキは、未だにドラムブレーキが多用されているのです。

ご存じの方は少ないかもしれませんが、4輪ディスクブレーキのクルマにおいても、2000cc以上のクルマでしたら後輪のディスクブレーキの内側にドラムブレーキが入っているのです。


12-3. ディスクブレーキ最大の長所


ならばディスクブレーキ最大の長所は何か言えば、ドラムブレーキと比べてゆっくりブレーキを効かせられる事なのです。

もっと正確に言うと、ブレーキを踏む強さに応じた制動力が掛るという事です。

今まで自動車雑誌等の影響でディスクブレーキの方が制動力が勝ると思っていた方には、何だそれはと思われるかもしれませんが、実はそうなのです。

また前輪にディスクブレーキが使われる理由は、減速時は前輪側に荷重が掛るため、急激に強い制動力を発生するドラムブレーキは向いていないからです。

余り知られていませんが、初代カローラでも途中から前輪にディスクブレーキが採用されていたのは、何も高速走行でフルブレーキするためでもなく、ましてやサーキット走行での放熱性を考慮したためでもなく、この不快(場合によっては危険)なカックンブレーキを無くすためだったのです。

     
      初代カローラ                 初代サニー

なお競合車である日産サニーに前輪ディスクブレーキが採用されたのは、2代目からですので、こういった所にもカローラの方が売れた理由があったのかもしれません。


12-4. 今でも起こるカックンブレーキ


先ほどカックンブレーキは殆ど死語になったとお伝えしましたが、実際は気が付かないだけで、今でも起きています。

一般の乗用車でしたら、まだまだ後輪にドラムブレーキが使われていると思います。

この場合、前輪程顕著ではないのですが、ゆっくりブレーキングしたつもりでも何故か同乗者が前のめりになる事があるとしたら、実はこれもカックンブレーキなのです。

特に雨の朝、或いは洗車後に起きるとしたら、100%これが原因です。

このカックンブレーキとブレーキ力の強さについては、後ほど分かり易く説明したいと思いますが、ディスクブレーキの様にある一つのもの(機構)が、他より100%勝っているという事は通常ない事を知っておいて頂ければと思います。




12-5. カックンブレーキの原因


それではドラムブレーキだとなぜこのカックンブレーキが起こるかについて、分かり易く説明したいと思います。

それではまた問題です。

下図の様にテーブルの上に紙を1枚置きます。

     
次にその紙の上に、下敷のエッジが図の様に斜めに当たる様に乗せます。

その状態で、紙を赤い矢印の方に引きます。

すると、何事もなく紙は引けます。

それでは次に、青い矢印の方向に引いてみましょう。

するとどうなるでしょう。

殆どの場合、前回と同様に引けると思いますが、稀に紙が下敷きのエッジに引っ掛かって抜き難くなるのが分かりますでしょうか?

この重くなるのは、単に下敷のエッジが用紙に食い込むためと思われるかもしれませんが、この現象は下敷きの先端が滑らかであっても発生する事があります。

その理由は、以下の通りです。

先ず紙を青い矢印の方向に引きます。
      

すると、紙と下敷きの間の摩擦抵抗が高いと、下敷きの先端にも青い矢印の方向の力が掛ります。

すると、その力によって下敷きが紫の矢印方向に回転しようとします。

この回転力によってさらに下敷きが紙を強く押すため、紙がますます抜け難くなるという訳です。

実はその理由こそが、カックンブレーキの原因で且つドラムブレーキの特徴なのです

余談ですが、この原理を応用したのが、囲炉裏の上にある棒の長さを自由に調整できる自在鉤(じざいかぎ)です。


自在鉤

前置きが非常に長くなってしまいましたが、それではドラムブレーキで考えてみましょう。

まずドラム(グレーの部分)はタイヤと一緒に青い矢印の方向に回転しています。

                 

そこでブレーキを踏むと、ブレーキパッドは赤い矢印の方向に押され、ドラムに強く接触する事でドラムの回転を抑えます。(図1参照)

  
        図1            図2             図3

通常の解説はここまでなのですが、問題は左側のブレーキパッドです。

左側のブレーキパッドがドラムに接触すると、ドラムの回転する力(黄色の矢印)をブレーキパッドが受けます。(図2参照)

次にこの黄色の力によって、左のブレーキパッドが更に外側に広がろうとする緑の力が発生するため、下敷きの例の様にブレーキを踏んだ以上に強く制動が掛るという訳です。

一方右側のブレーキパッドは、緑の矢印が内側に向く方向なので、ブレーキを踏んだ以上の力は働きません。

通常この強い制動力は、ブレーキを強く踏み込んだときしか起きないのですが、ブレーキパッドが湿っていたりして、ドラムとブレーキパッド間の摩擦抵抗が大きくなると、軽くブレーキを踏むだけで急激に発生する場合があります。

これがカックンブレーキの原因です。

ご理解頂けましたでしょうか?

12-6. サーキットにおけるブレーキ性能


サーキットで早いクルマはと訊かれれば、どなたも最高速や加速性能や空力特性の高いクルマをイメージされる事でしょう。

確かにそれも大事なのですが、ブレーキ性能を上げる方は殆どいらっしゃらないのではないでしょうか。


ラップタイムを縮めるには、ブレーキをどれだけ我慢できるかに掛かっている

ならば、本書が取り上げるしかありません。

サーキットでラップタイムを縮めるには、誰もがアクセルを踏む事ばかりを考えていますが、アクセルを踏むだけでしたらそれこそ誰にでもできるのです。

誰にでもできる事をいくらやっても、ラップタイムは決して縮まりません。

ならばどうするかですが、とにかくブレーキを掛けるのを(怖さに耐えて)ひたすら我慢する事です。

ではブレーキ性能が向上したら、サーキットにおけるラップタイムはどれくらい改善されるのか、計算で求めてみましょう。

たとえば富士スピードウェイのホームストレッチにおいて、ブレーキ性能が2倍に向上したら、走行時間はどれくらい改善されるのかを求めてみたいと思います。


富士スピードウェイのホームストレッチの長さは1.5km(正確には1475m)で、第1コーナー手前の最高スピードは時速300kmに達する場合もあるとの事です。

ですので、最終コーナーを抜けた速度を時速100kmとして、それからアクセル全開で観客席を抜けて第一コーナー直前で時速300kmに達するとします。


ご存じの様に速度が速くなれば、それに伴って風の抵抗が速度の2乗で大きくなりますので、上のグラフの様にスピードが伸びていくとします。

でもこのままでは、非常にタイトな第1コーナー(27R)にオーバースピードで飛び込んでしまいますので、その前に時速100km程度まで減速しなければなりません。

クルマが完全に停止するまでの制動距離は、時速50kmで14m、100kmで56m、200kmで225m、300kmで506mですので、この場合時速100kmまで減速するためには、第1コーナー手前300mから減速を開始しなければいけません。

これをグラフで表すと、以下の様になります。


すなわち1200mまではフルスロットルで加速し、残り300mで時速292kmから時速100kmまで減速して第1コーナーをクリアーしようという訳です。

この時の平均速度と直線の所要時間をグラフから(積分して)求めると、時速215kmと25.1秒です。

次はブレーキ性能を2倍にしたクルマの場合です。

この場合、150m手間から減速してもコーナー直前で時速100kmに減速できるとします。

これをグラフに表すと、以下の様になります。


さてこの場合の平均速度と直線の所要時間はどれ位でしょうか?

同じ様にグラフから(積分して)求めると、時速225kmと24.0秒です。

前述のクルマと比べると、平均速度が10km早くなり、ラップタイムが1.1秒も短縮されました。

たったの10km/h、たったの1秒と思われるかもしれませんが、率にすれば4%の改善ですので、熾烈なレースにおいては、とんでもない数値です。

もしコーナーの多いサーキットであれば、このアドバンテージがコーナーの数だけ増える事になります。

ブレーキ性能と聞くと、障害物の前で止まれるかどうかの判断材料程度にしか思い付きませんが、ブレーキ性能が良ければレースのタイムも良くなる事がこれで分かって頂けたでしょうか。




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