小学生でも分かるトルクと馬力の話 
(本当に早いクルマとは?)

2010/1: 初版
2017/2: 改定



目次


  13. タイヤホイール
  13-1. アルミホイールは軽いのか?
  13-2. アルミの知られざる特徴
  13-3. バネ下荷重はバネ上の10倍?
  13-4. バネ下荷重その2 ←2016/9/18追記
  13-5. ワイヤーホイールのお勧め

第13章:タイヤホイール
(実は鉄製より重いアルミホイール)


サスペンションの次は、タイヤホイールについても話しをしたいと思います。

ホイールと聞けば誰しも、お洒落なアルミホイールを思い浮かべる事でしょう。

そして当然ながら、鉄製のホイールより断然軽いと思われている事でしょう。

ですが、本当にそうなのでしょうか?

また、ホイールが軽くなると、タイヤの路面への接地性が良くなると、自称自動車評論家の方々は平気に口にしますが、本当にそうなのでしょうか?

更にはバネ下荷重が軽くなると、バネ上荷重の十倍も運動性能が上がるとう話を信じて疑わない方までいらっしゃいますが、実際はどうなのでしょう。

先に言ってしまいますと、全て全くのデマです。

という訳で、ここではそのデマを木端微塵に粉砕すると共に、アルミと鉄の知られざる特徴についてじっくりお話ししたいと思います。

まことしやかに言われるデマが正しいか、或いは弱小本サイトが正しいか、じっくり読んで判断してみて頂ければと思います。


13-1. アルミホイールは軽いのか?


先ほどお伝えした様に、恐らくどなたも、鉄製のホイールよりアルミ製のホイールの方が、軽くて、丈夫で、運動性も良くて、値段が高い事を除けば良いこと尽くめだと思われているのではないでしょうか?

       

残念ながら、それは大きな間違いです。

そもそもアルミホイール(正確には微量の銅、亜鉛、マグネシウム、鉄等が入ったアルミ合金ホイール)が鉄製より軽いというのが全く誤解で、実際に同じサイズのホイールを比べてみると殆どの場合アルミ製の方が重いのです。

嘘だと思われるかもしれませんが、クルマメーカもアルミホイールメーカも、アルミに交換して何キロ軽くなったとは一切公表していない事からも分かって頂けると思います。

この理由は、確かにアルミは鉄の1/3の重さ(正確には比重が1/3)なのですが、実は強度も鉄の1/3で、なお且つ靭性(じんせい)が非常に劣る(衝撃に弱い)事から、クルマを余裕を持ってに支えるとなると、結局鉄以上の重さになってしまうからです。

その昔ナポレオンがフランスからイタリアに侵攻するため、アルプス越えを敢行しました。

その際、大砲を全て軽いアルミ製にしたかったものの、当時は電気精錬法がなくて断念したという有名な逸話があります。

             

この話は間違いではないのですが、もし電気精錬法があってもアルミを断念したのは間違いありません。

何故ならば、大砲をアルミに変えたら、間違いなく鉄以上に重く、且つかさばる物になっていたからです。

実際今までに、アルミ製の銃や機関銃や大砲を見た事がありますか?

飛行機やカメラのボディーの様にある程度衝撃が限定されるのであればともかく、衝撃が直接加わるものであれば、しなやかで且つ強度のある鉄(正確には鋼)が重量の面からも理想的な金属なのです。

ですので強度の掛からない部分でしたら、鉄をアルミに変えて軽くなる可能性もあるのですが、タイヤのホイールの様にクルマの全荷重や、路面からの衝撃に耐えるとなると、結局の所、鉄より重くなってしまうのです。

ダイビング用空気タンクの話

突然ですが、アルミと鉄の重量に関連して、ここで少し面白い話をお伝えしたいと思います。

皆さんはスキューバーダイビングの経験はありますでしょうか?

重いタンクを背負って水中に潜るあれです。


そのタンクですが、うまい具合に鉄製とアルミ製の2種類が存在します。


左から①アルミ製8Lタンク、②アルミ製10Lタンク、③鉄製10Lタンク

当然ながら、ダイビング用のタンクには高圧空気(大気圧の200倍の20MPa)を充填しますので、破裂しない様に相応の強度が必要になります。

となると、タンクの容量が同じであれば、アルミ製のタンクは鉄よりも壁を厚くする必要があるため、結果的にアルミタンクの外形は大きくなります。

このため、上の写真の様に、中央の②アルミ製10Lタンクの方が③鉄製の10Lタンクより大きいのはそれが理由です。

前置きが長くなってしまいましたが、さてそれでは、同じ容量のアルミ製タンクと鉄製タンクではどちらが重いでしょうか?

実際に空気を充填した状態で測ってみると、同じ10Lのアルミ製②が17kgで鉄製③が16kgなのです

すなわち、同じ容量のタンクであれば、何と鉄よりアルミの方が重いのです。

これはほんの一例にすぎないかもしれませんが、少なくともこれで強度が同じ場合、鉄をアルミにしたら重くなるという実例がある事をご理解頂けるのではないでしょうか。

なおそう言うと、これは100%アルミの話で、アルミ合金にすれば鉄より軽くできると言う方が必ずいっらしゃいます。

ですが、それも大きな間違いです。

世の中に、純アルミや純鉄のまま構造体に使われているものなど、存在しません。

鉄も炭素を含めて色々な物を混ぜて、より優れた機械的特性を引き出しているのです。

その現実的なアルミ合金と鉄合金を使った結果が、このタンクの重さに表れているのです。

以上でクルマに関係する空気タンクの話は終わりなのですが、もしかしたらダイビングが趣味の方もいっらしゃるかもしれないので、最後にこの話もしておきましょう。

では、ダイビングをするに当たっては、鉄製とアルミ製のどちらのタンクの方が使い易いのでしょうか?

実はどちらも、一長一短があるのです。

下の表は二つのタンクの空気をフル充填(20MPa)した場合と、残量が1/4(5MPa)になった時の10Lタンクの比重(水との密度の比較)を表しています。

充填量\種類 アルミタンクの比重 鉄タンクの比重
満充填 1.1 1.3
残量25% 1.0 1.2

これをご覧頂きます様に鉄タンクの方が数値(比重)が大きいので、水に沈み易い事を表しています。

ですので、その分身体に付けるウェイトを軽くする事ができるのです。

具体的には、鉄製タンクの方が1kg軽くて、ウェイトも2kgほど軽くできますので、陸上では鉄タンクの方が重量面では明らかに有利になります。

ただし鉄タンクは水より重いので、背中に乗せていると水中で不安定な(仰向けになり易い)のに対して、アルミタンクの比重は水とほぼ同じなので、姿勢が安定し易いというメリットがあります。


覚えておいて損はないと思います。


という訳で、アルミホイールはデザインは良いものの、殆どの場合鉄製の方が、安くて、軽くて、丈夫というのをご理解頂けましたでしょうか。(いつか鉄のすばらしさも、述べたいと思います)

それでもまだアルミの方が優れていると思っている方のために、最後にもう一つ実際にあった話をしておきましょう。

昔あるオートバイメーカーが、軽量化のためにアルミ製のパイプフレームを試作したそうです。

当然ながら、相応の強度計算を行った上で試作したのですが、なんと最初の試運転で見事に曲がってしまったそうです。

前述しました様に、金属の靭性(粘り強さ)も非常に大切なのです。

鉄(鋼)の靭性は、アルミの2倍以上あるのです。

話が逸れましたが、もしアルミホイールに交換するときは、是非重さを比較して且つ強度規格を確認してからにする事をお勧めします。

特に最近、純正ホイールに比較して42%軽量という様な広告記事がありますが、これは強度が同じ場合に初めて比べられるのです。


軽量なアルミホイールは強度を確認する必要がある

もし強度も半分になったとしたら、軽くなるのは当たり前の話で、それに更に数十万円の追加料金を払うのは全くもってナンセンスです




13-2. アルミの知られざる特徴


ご質問を頂いた事もあり、アルミの特徴について、もう少しここで述べておきたいと思います。

先ず1点目。

アルミは鉄より錆び難い、と思っていませんか?

これも100%間違いではないのですが、実のところアルミは鉄以上に錆び(酸化し)易いのです。


ただしその錆は、別名アルミナとも呼ばれる比較的丈夫で安定した白い金属(酸化アルミニウム)のため、それによってアルミが錆びたと認識されず、且つアルミ内部が守られているという訳です。

続いてもう一つ。

もしかしたら、鉄よりアルミの方が貴重な金属だと思っていませんか?

それも大きな間違いで、地球上で一番多い金属はアルミ(鉱石はボーキサイト)なのです。

また前段でさんざん述べました様に、アルミの重さは鉄の1/3だが、強度も1/3なので単純に鉄より軽くはできません。

と、今までどちらかと言えばアルミに関してネガティブな話をしてきまましたが、ならばアルミの長所とは一体何なのでしょうか?

実は、アルミの最大のメリットは”かさばる”事なのです。

それでは説明を簡単にするため、ある角形フレームの強度を維持したまま鉄をアルミに変えたら、フレームの体積が3倍になったとしましょう。

とすると、鉄と同じ強度/重さでありながら、アルミにしたら3倍もかさばる事になります。

クルマのアルミホイールを思い出して頂ければ、鉄のホイールが薄い鉄板でできているのに対して、アルミはそれよりかなり太く/厚くなっているのが分かると思います。

実はこのかさばる事が、短所でもあり最大の長所なのです。

突然ですが、例えば厚み1mmの金属の板があったとして、それを曲げる力が1kgfだとします。

とすると、同じ金属の厚さ2mmの板を同じ様に曲げるには、どのくらいの力が必要でしょうか?

厚みが2倍になったのだから、力も2倍の2kgfと思われるかもしれませんが、それも大間違いです。

厚みが2倍になると、曲げる力はその3乗に比例して、何と8(=2×2X2)倍になるのです


剛度は板厚の3乗に比例する

もし厚みが3倍になると、その3乗で27(=3×3×3)倍になるのです。

すなわち、同じ金属であれば厚みが3倍になると、27倍曲げ難くなるのです。(この曲げ難くさを、剛度もしくは剛性と呼びます)

金属ではありませんが、厚さ2~3mmのベニヤ板なら簡単に曲がるのに、かまぼこの板の様に厚みが10mm程度になったら、途端に全く曲がらなくなるのはこのためです。


かまぼこの板は曲がらない

ただしアルミは、同じ厚みでも鉄より1/3軟らかい(曲げ易い)ので、厚みが鉄より3倍厚くなると前述の27倍とこの1/3を掛けて、9倍剛性が高くなる(曲げ難くなる)のです。

話が長くなってしまいましたが、鉄をアルミに変えると、強度と重さは変わらないものの、体積は3倍になり、剛度は何と9倍に跳ね上がるという訳です。

良く生産ラインの治工具台や、身近な所ではハードディスクの筐体にアルミが使われるのは、加工が楽なのと、何より厚みが増す分鉄より剛度が上がり頑丈になる(曲がり難い)からです。


ハードディスクの筐体は剛度の高いアルミでできている

少々横道にそれてしまいましたが、これでアルミの特徴を掴んで頂けましたでしょうか?

ですので、もしアルミでクルマを作ったとしたら、鉄よりも数倍かさばったボディーとなり、それ伴って数倍剛性の高いクルマになるという訳です。


13-3. バネ下荷重軽減効果はバネ上荷重の10倍?


ついでにもう一つ付け加えておきましょう。

”バネ下重量の軽量化は、バネ上の軽量化の10倍(中には20倍とも)効く”という話がまことしやかに流れていますが、これも全くの嘘です。

こう聞くとタイヤが回転しているので、何となくその様な嘘に惑わされるようですが、タイヤが路面に接している限り、その様な事は決してあり得ません。

中には歩行中常に持ち上げる靴と接地しているタイヤを一緒にして、軽い靴の方が早く走れて、疲れないのだから、軽いタイヤの方が有利だというのは、完全に間違いです。

例えば、ここに1個15kgのタイヤがあって、これを試しにチタン或いは炭素繊維等の最先端の材料を使って1個1kgにまでに軽量化したとします。(思いっきり小型化しても良いのですが)

だとするとタイヤは4個付いていますので、全部で56kg削減で、その10倍で560kgのバネ上荷重削減効果がある(もし20倍だと何と1120kgで自動車1台の重さが消えてしまう)などと、誰がどう考えてもあり得ない事は分かって頂けるでしょう。

もしその様な夢の様な事があれば、1gの削減に努力している全自動車メーカは、ホイールメーカになっている事でしょうし、ホイールカバーは存在しなくなります。

この手の話は、立派な装丁のある本(著者は自称自動車ジャーナリスト)あるいはホイールの宣伝にもいまだに堂々と謳われています。

ただしこれを読んで頂いた方には、全く根も葉もない話だとご理解頂けると思いますので、この様に技術的に根拠のない事を宣伝に使う業者の製品は強度計算/強度試験が適切に行われているか甚だ疑問ですので、購入には十分注意すべきです。


13-4. バネ下荷重その2


ホイールが軽くなっても運動性能は変わらないと言い続けているのですが、なかなか信じて頂けません。

このため、新たに以下の絵を描いて見たのですが、いかがでしょうか?

ここに総重量もエンジンも車体形状も同じ2台のクルマがありました。


ただしA車はタイヤを含めて車輪の重さが10kg、B車は20kgです。

このためB車の車体は、A車より40kg軽くしてあります。

さて、どちらが走行性能(加速度、最高速度、燃費)が上でしょうか?

そう尋ねられると、恐らく大多数の方がA車だと思われるのでしょう。

ですが、車輪が地面に着いている限りどちらも同じなのです。

確かにクルマを持ち上げて車輪を無負荷状態にすれば、車輪が軽い方がすばやく回転します。

ですので、感覚的には車輪が軽いほうがクルマも軽快に走るとイメージしてしまいますが、エンジンは車輪を回しているのではなく、車輪を介して地球(クルマ)を動かしているのです。

この例で納得して頂けるかどうか不明ですが、タイヤを歯車と考えてみて頂ければ多少分かり易くなるかもしれません。

具体的には、タイヤがピニオンギヤで道路がラックになります。



この場合、ピニオンギヤは駆動をラックに伝えるだけのものなので、普通エネルギーを持った回転体としては考えません。

またもしタイヤをエネルギーを持った回転体として扱うのでしたら、エンジン内部のクランクシャフトやデフや車軸やブレーキディスクも全て回転エネルギーを持っている事になり、タイヤだけエネルギーを持った回転体として考えるのもおかしな話です。


ですから、クルマの総重量が同じである限り、車輪が軽いか重いかはクルマの運動性能には全く関係しないのです。

恐らくこの説明でもご理解頂けない方も多くいらっしゃるでしょうから、どこかのテレビ局で実験して頂けないものでしょうか?


13-5. ワイヤーホイールのお勧め


最後に、最近街でめっきり見かけなくなったワイヤーホイールの話はいかがでしょうか?

    

これも隙間がいっぱいあるので一見軽そうに見えるのですが、実は意外に重く、且つ掃除が非常に大変なので、装着するのもかなり勇気がいるのですが、その分非常にゴージャスです。

多少費用が掛っても、これを自分の愛車に付けて優雅に走る方が、(周囲がその苦労を知っている分)余程クールに思いますがいかがでしょうか。

おっと言い忘れましたが、ワイヤーホイールのセンターには、お洒落なスピナーをお忘れなく。




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