小学生でも分かるトルクと馬力の話 
(本当に早いクルマとは?)



 16.タイヤⅡ
  16-1. タイヤはグリップが高い程良い?
  16-2. タイヤの種類と特徴
  16-3. タイヤの宿命と理想のタイヤ
  16-4. グリップ力可変タイヤ
  16-5. エコタイヤ
  16-6. アドヒージョンとヒステリシスロス


第16章:タイヤⅡ
(理想のタイヤとは?)



16-1. タイヤはグリップが高い程良いのか?


さて話が前後してしまいましたが、タイヤについて本質的な問題を考えてみましょう。

先ずタイヤの目的ですが、タイヤメーカのHPを見るとどれも以下の様に書かれており、これ自体に特に異論は無いと思います。

①クルマの荷重を支える。
②路面から衝撃を吸収する。
③駆動制動を路面に伝える。
④曲がる。

この中でクルマのスピードに関係するのは、③④に関わる路面とのグリップ力(摩擦力)というのも異論は無いと思います。

ならばこの路面を掴むグリップ力が強ければ強い程、クルマは早く走ると思って宜しいでしょうか?

         
     ポテンザS001     アドバンスポーツ      ピレリP7

恐らく誰もがYESと思われるかもしれませんが、残念ながら本サイトの答えはNOなのです。

何故ならば、グリップが強ければ強いほど、タイヤの転がり抵抗が増え速度が低下するからです。

例えばですが、自転車のタイヤにチューインガムが多数付いていたとします。

この場合、当然ながらタイヤのグリップ力は非常に強くなるのですが、その分タイヤを回すため力が増え(転がり抵抗が増え)、むしろ自転車のスピードが遅くなるのは感覚的に分かって頂けると思います。

上記を考慮すると、タイヤのグリップ力は、路面とタイヤが滑り出す直前程度(駆動力を滑る事なく路面に伝え、且つころがり抵抗も最小となる)が理想と言えます。

もっと極端に言うと、滑り易い加速時及び減速時はグリップ力が強くなり、滑り難い定速走行時はグリップ力が弱くなるのが理想なのですが、現在の技術はそこまで至っていません。(それができたらタイヤの革命です)

ですので、前段の捕捉になりますが、いたずらにグリップの強いタイヤを履いたら、クルマは確実に遅くなるのです。(ただしブレーキ性能だけは、間違いなく上がります)

こう言うと、ならばなぜレーシングカーはグリップの高いタイヤを履いているのかと聞かれるでしょう。

その答えは簡単で、レーシングカーは一般車の数倍の駆動力を路面に伝える必要があるから、その分よりグリップの高いタイヤが必要なのです。


ですので、一般車がこのレーシングカー用のタイヤを履いたら、ガム付きタイヤを履いたのと同様、むしろ負荷が大きくなって却って遅くなるのです。(更にグリップが高い分タイヤは摩耗し易くなります)

この様な話は本来タイヤメーカが顧客に伝えるべきなのですが、ハイグリップタイヤの売り上げを優先するため、どの社も控えているのが実情の様です。

まとめとして、高性能タイヤの特徴を下記しておきます。

高性能タイヤの特徴
長所 短所
①急発進、急ブレーキ、急旋回性能が向上する。 ①燃費が悪化する。
②加速性能、最高速度が低下する。
③タイヤの摩耗が早い。
④値段が高い。

すなわち高性能タイヤとは、サーキットでは非常に有効だが、一般道では限りなく無駄が多いと言えます。

       


とは言え、自動車雑誌等の大量の宣伝に染まってしまうと、ハイグリップタイヤは無駄だとなかなか信じては頂けないでしょう。

でしたらこう言ったらどうでしょうか?

せいぜい100馬力前後の公道を走る一般車を、速度制限のないサーキットを走る500馬力以上のレーシングカー、さらには700馬力以上のF1カーと比べると、幼児用三輪車と一般車程度の差があります。

この幼児用三輪車に自動車のタイヤを付けたら、意味がないと言うより、むしろ弊害しかないのは誰でもたやすく想像できると思います。


実は筆者もその昔一般車に高性能タイヤを履いて、加速も最高速も燃費も乗り心地を悪化させた経験を持っています。

このため敢えて言わせて頂けるのでしたら、 高性能タイヤとは、サーキットでのみ有効で、一般道では害しかない、と結論付けたいと思います。


16-2. タイヤの種類(太さ/扁平率/グリップ)と特徴


各タイヤの特徴についてご質問を頂きましたので、表にまとめてみました。

下の表は、太さ/扁平率/グリップのカテゴリーにおいて、どのタイプのタイヤが一番バランスが良いかを○△×で表しています。

   種類 速度 燃費 快適性   雪道等  過激な運転 見た目   強度  コスト  総点
太さ  細いタイヤ × × × ×  ○ 2.0
標準タイヤ 2.3
太いタイヤ × × × × 1.9
 扁平率  厚いタイヤ × × 2.0
 標準タイヤ 2.1
 扁平タイヤ × × 2.1
グリップ   低グリップ × × × 1.9
 標準タイヤ  2.1
高グリップ × × ×  2.0


上の表で○が3点、△が2点、×が1点として平均した結果を総点としており、各カテゴリーの中で一番バランスが良いのを青字で示しています。

多少主観的な所もありますが、いかがでしょうか?

結論としては、何か余程の目的が無ければ、やはり標準タイヤが一番妥当という事になります。

なお上の表はあくまでも一般道を想定していますが、これが雪道ですと、どんなタイヤでも細いタイヤほど雪に食い込んでいくので走破性は高まります。

また逆に砂地ですと、太いタイヤほど砂にめりこまないので、走破性は高まります。

覚えておいて損はありません。




16-3. タイヤの宿命と理想のタイヤ


多少重複しますが、最後にタイヤについて本質的な事を述べたいと思います。

クルマの特性として、走る曲がる止まると言われますが、速く走り、早く曲がり、早く止まるにはタイヤはどうなければいけないのでしょうか?

全てグリップ力が高ければ高いほど良いと思っていませんか?

確かに早く曲がり、早く止まるにはグリップ力が高い程良いと言えます。

ついでに付け加えますと、早く加速するためにも、クリップ力は高い程良いと言えます。

これら(曲がる、止まる、加速する)に共通する事は、いずれも物理的には加速しているという事です。

加速するためには、道路を蹴って進んでいく必要がありますので、当然グリップ力が必要です。

では“走っている”場合、すなわち加速し終わって、一定速度で真っすぐ巡航している場合、タイヤはどうあるべきでしょうか?

エッ?と思われるかもしれませんが、理想を言えばグリップ力はゼロが良いのです。

もう少し正確に言いますと、曲がりも、止まりも、加速もしなければ、更に風の抵抗すらない、一直線の平らな道を走るのであれば、タイヤのグリップ力はゼロが理想なのです。

地球上であれば風の抵抗が無い事はあり得ないので、この風の抵抗に打ち勝つだけのグリップ力があるのが理想的なタイヤと言えます。

長くなってしまいましたが、要点としては以下の通りです。

  曲がる、止まる、加速する場合:グリップ力が高い方が良い

  一定速度で走る場合     :グリップ力が低い方が良い


この例がスピードスケートです。

スピードスケートのスタートの瞬間は、ブレードのエッジで氷を蹴って走り出します。

 
スタート               コーナー 

またコーナもエッジを効かせて曲がります。


ただし直線になると風の抵抗に対抗するため、キック動作は行うものの、極力ブレードの摩擦抵抗を抑えて滑らかに進み(滑り)ます。

こうする事によって、(人が走る以上に)タイムを縮められるという訳です。

もう一つ別の例が鉄道になります。

鉄道の場合、車輪もレールも鉄ですので、タイヤ(ゴム)とアスファルトの路面よりも摩擦力(グリップ力)は劣ります。


このため、自動車よりも加速性能(曲がる、止まる、加速する)は劣ります。

しかしながら、最高速はクルマより優れていると言えます。


もし仮に、同じ電車にゴムを巻いた車輪を付けたとすると、加速性能は上がりますが、最高速度は低下するという訳です。

いよいよ本項のまとめです。

繰り返しになりますが、タイヤには以下の二律背反した難しい宿命が潜んでいるのです。

加速性能を上げたいのならば、グリップ力を上げなければいけない。
最高速度を上げたいのならば、グリップ力は下げなければいけない。


更に上記二つをまとめると、以下の様に言えます。

理想のタイヤとは、あらゆる場面で滑る直前のグリップ力だけを出せる物である。



16-4. グリップ力可変タイヤ


先ほど、理想のタイヤとは、あらゆる場面で滑る直前のグリップ力だけを出せる物であると述べました。

とすると、タイヤのグリップ力を状況に応じて制御できればタイヤの革命になるのではないでしょうか。

ですが一つのタイヤにおいて、グリップに強く関係するコンパウンドを走行状態によって変える事は、どう考えても不可能です。

でも、それ以外にグリップ力を制御する方法が一つあります。

空気圧です。

今までに何度か述べました様に、空気圧が低ければグリップ力は上がり、高くなるとグリップ力は低下します。

もしかしたら経験された方もいるかもしれませんが、タイヤ空気圧の許容範囲を指定値の±5%だとすると、上限と下限の設定では燃費で2割程異なります。

この2割の中にはタイヤの変形によるエネルギーのロス分も含まれますので、一概には言えないのですが、2割程度のグリップ力を制御できる可能性があるという訳です。

走行中にタイヤの空気圧を変える事はかなり難しいでしょうが、タイヤとホイールの間に体積を可変する装置を組み込めれば、もしかしたら可能かもしれません。

その一方で、実は既にグリップ力は自動的に変化している事もお話しておきましょう。

以下のグラフは、タイヤ内の圧力と温度の関係を示しています。

   

これから分かる様に、25℃で207kPaに空気圧を設定した場合、長時間走行してタイヤ内の温度が50℃に上がると圧力は240kPa(16%)に上がります。

ですから、高速道路を長時間運転してタイヤ内の温度が上がれば、自動的にグリップ力は下がって燃費も向上しているという訳です。

これも知っておいて損のない話だと思います。




第16章: タイヤはグリップが高い程良いのか?

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