小学生でも分かるトルクと馬力の話 
(本当に早いクルマとは?)

2013/03: 初版
2017/07: 改訂



 20. テクニック編Ⅱ
  20-1. カーブでの運転姿勢
  20-2. バイクとクルマのコーナーの傾き
  20-3. ハングオンの効果

第20章:テクニック編Ⅱ
(カーブにおける合理的な運転姿勢とは?)


20-1. カーブでの運転姿勢


こんな話を聞かれた事はありませんか。

カーブでは体を傾けないで、垂直を維持する。

いかにもそれらしいアドバイスですが、本当でしょうか?

もしかしたら、自動車レースを見て言われているのかもしれませんが、レーシングカーのシートはご存じの様にコーナリング時の横G(遠心力)に耐えるバケットタイプになっていますので、体を傾け様にも傾けられないのです。


実際F1カーの様にドライバーが交代しない場合、オーダーメードのバケットシートになっていますので、別の体型の人が乗る事もできない程ぴったりした作りになっています。


F1カーのシートはオーダーメード

これに対して一般車のシートは、万人が運転できる様になっていますので、ちょっとしたスピードでカーブを曲がると体が外側に持っていかれます。

その時踏ん張って、体を垂直にしていていた方が良いでしょうか、それともバイクの様に内側に傾けた方が良いのでしょうか?

これも異論があるかもしれませんが、本サイトでは”傾ける”を推奨したいと思います。

理由は二つあります。

先ず1点目は、体を内側に傾けた方が、体を支え易いのです。

左下の写真をご覧頂きます様に、カーブでは外側に引っ張る遠心力(赤の右矢印)が働きます。

このとき、地球から重力(黄色の下矢印)も加わりますので、両者が合わさって斜め下方向の力(白の矢印)が、クルマにも人にも働きます。

     
    右カーブ(外側に傾く)          右カーブ(内側に傾く)

となると、体を内側(上の写真の場合左側)に傾けた方が、二輪車の様に体を支える事を考えれば楽なのです。

二点目は、非常に僅かではありますが、体を内側に傾ける事によって、クルマの重心位置を内側に移動できるからです。

コーナーでは、写真(上左)でも分かる様に外側のタイヤに荷重が掛り(逆に言えば内側のタイヤに荷重が掛らない)ので、少しでも体重を内側に傾ける事によって、外側の荷重を減らし内側の荷重を増やす事ができます。

実際サイドカーにおいては、この傾向が顕著で、以下の写真の様にパッセンジャーは体重を移動して常にカーブの内側に重心を掛けてコーナーをクリアしていきます。

  
右カーブでは右側(内側)に荷重     左カーブでは左側(内側)に荷重

これによって、内側のタイヤが空転する限界速度を上げる事ができるという訳です。

本項の結論です。

カーブになったら、積極的に体を内側に傾けるべきです。




20-2. バイクとクルマでコーナーでの傾き方向が違う理由


バイクの話が出た所で、この話もしない訳にはいかないでしょう。

前述の写真において、クルマの方はカーブの外側に傾いているのに、バイクはカーブの内側に傾いています。

変だと思いませんか?

ですが、クルマが外側に傾く理由は簡単に説明できます。


カーブではクルマは外側に傾く

カーブを曲がっている最中は、クルマの重心に遠心力(赤い矢印)が働く事は既にお伝えした通りですが、この力が加わるとどうなるでしょう。

上図の様な場合(クルマの中心位置に遠心力が加わる場合)だとイメージし難いかもしれないので、少し極端にクルマの屋根に赤い矢印の方向に力が加わった場合を想像してみて下さい。

となると、当然写真の様にクルマが傾くのは分かって頂けると思います。


すなわち、クルマは常にカーブの外側に傾くのです。

ではなぜ、バイク(人も自転車もですが)はカーブの内側に傾くのでしょう。

先に答えを言ってしまいますと、バイクの場合も、当然カーブで外側に傾こうとするのですが、それでは倒れてしまうので、ライダーが車体を内側に傾けてバランスを保っているのです。

ではなぜ内側に傾けるとバランスが保てるのか、力学的に考えてみましょう。

難しそうに思いますが、これも非常に簡単な事です。


 倒れない         倒れる         倒れない

先ずバイクが真っすぐな道を走っています。

この場合、黄色の重力しか働いていないので、安定しています。
次にカーブ差し掛かりました。この場合赤い遠心力が働きます。

真っすぐ立っている物に、横から力を加えられたらどうなるか?

タイヤと地面の接触点を中心にしてバイクを右方向に回すオレンジの力(これが以前お話しましたモーメントです)が発生しますので、このままですと当然右側に倒れてしまいます。
でもカーブに差し掛かった時に、左側に傾いたらどうなるでしょう?

このままだと矢印が増えて複雑になるので、もっと簡単な絵にして再度ご説明しましょう。

ちょっとイメージが変わり過ぎたかもしれませんが、下はバイクを簡略してバイクに加わる力(矢印)を追加した絵です。


これを使ってもう一度説明しますと、以下の様になります。

真っすぐ走っていますので、重力だけが働いていて、安定しています。
カーブに差し掛かって遠心力が加わりますので、オレンジの矢印方向に回転しようとします。

このとき倒れない様にするためには、赤い矢印と逆方向の力を加えてやる必要があります。
そのためにはどうするかですが、バイクを内側に傾けてみます。

そうすと、重力がバイクの中心軸から外れる(傾く)事によって、青色の力が生じ、バイクを左側に回転させようとする水色の回転力が生じます。

この左に回転させる力が、同じく遠心力から生じたオレンジの回転力(右側に回す力)と同じになれば、二つの回転力はつり合ってバイクは倒れないという訳です。

絵は少々複雑ですが、原理としては簡単な事です。

ただしこのとき、バイクを傾ける量が少なければ右側(外側)に倒れますし、傾け過ぎればこんどは左(内側)に倒れてしまいます。

人間というものはたいしたもので、それを自然にコントロールしているという訳です。

そういえば、子供の頃に初めて補助輪無しで自転車に乗ったときに、以下の様な経験をした事はありませんか?

曲がろうと思ってもどうすれば曲がれるか分からずに、そのまま壁にぶつかった。


初めて自転車に乗ると曲がり方が分からない

或いは、ハンドルを切ったら転びそうになり、思わず逆にハンドルを切って転んでしまった。

これはカーブでは自転車を傾けないと曲がれないという事を、まだ身体と脳が理解できていないからです。

ただし、何度か身体を傾けると曲がるという事を体感すると、脳と身体がそれを認識して、自然にできるようになるという訳です。

4輪のクルマと違って、バイクでは内側に傾けない限り曲がらないという事を、これでご理解頂けましたでしょうか?

さてまとめです。

上段で矢印をいっぱい書いてしまいましたが、これをシンプルにまとめると、お馴染みの以下の写真になります。


白い矢印(重力と遠心力の合成)に沿ってバイクを傾ければ倒れない

これが何を表しているかと言えば、重力(黄色の矢印)と遠心力(赤色の矢印)を合わせた白い矢印に沿ってバイクを傾ければ、バランスが取れる(倒れない)という事です。

ここまで分かってくると、もっと面白い事が分かってきます。

バイクのレーサーがコーナーで身体をずらしている姿(ハングオン)を見ますが、こうすると何故コーナリング性能が良くなるのでしょうか。

次の項でその謎を解き明かしたいと思います。


20-3. ハングオンの効果


それでは何故ハングオン(上体を内側にずらす)をすれば、コーナリング性能が良くなるかご説明したいと思います。


何故ハングオン(上体を内側にずらす)をするとコーナリング性能が良くなるか?

下の図は、前述のバイクに働く力に、タイヤと路面の間に働く力を追加しています。


バイクでカーブを曲がるには、遠心力とバランスを取るため車体を内側に傾けました。

そうすると倒れはしないのですが、タイヤと路面の間には赤い矢印の力が発生します。

この赤い力が、タイヤのグリップの範囲内なら良いのですが、スピードが上がり更に車体をどんどん傾けると、いつか赤い矢印がタイヤの限界を超え、ついには転倒する事になります。

これを防ぐためには、どうすれば良いか?

車体の傾きを、極力少なくすれば良い事になります。

そのためにはどうするか?

では次にバイクに乗っている人が、車体の中心からずれて乗った場合を考えてみます。


 倒れる          倒れない        倒れない

上の図のAの様に乗ると重心が左にずれる事から、このままではオレンジの方向に倒れてしまいます。

ところが、車体を右に傾けると重心がタイヤと地面の接触点に向きますので、倒れないで進む事ができます。

自転車で片方のペダルだけに足を掛けて乗ると、この状態になります。


ペダルに片足を掛けて乗ると、自転車は傾く

ではこの状態で青い矢印の方向に曲がるとどうなるでしょう。

その場合、車体の傾きを減らしてカーブを曲がる事ができるのです。

それを表したのが、下の図です。


このCをご覧頂きます様に、同じ重力と同じ遠心力を受けながらも、車体を大きく傾けなくてもカーブを曲がれるという事が分かって頂けると思います。

すなわちハングオンを行うと、車体を傾ける量を減らしてカーブを回れるので、より早いスピードでカーブを走れるという訳です。


ハングオンを行うと、車体を傾ける量を減らせる

またまたいつもの写真ですが、もしこの写真の様にハングオンしないでカーブを曲がると、車体はもっと内側に傾く事になります。

またカーブ内側の膝を突き出すのは、重心をカーブの内側に更に移動させるためで、傾き具合を知るためではありません。

なおこのハングオンスタイルは、何もレースだけでなく、雨で滑り易いカーブを自転車で走る場合でも有効です。

知ってしまうと簡単な事です。




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